11月13日の朝方

日付変わった午前1時半頃、
シャワーを浴び終わった私を待っていたのは、内線の電話だった。
「先生?Aの具合が物凄く悪いから、すぐに部屋に来て!」叫ぶような声。
冷やしていた水と携帯している薬を持って、
眠い目をこすりながら、彼女らの待っている部屋へと急いで向かう。
Aは、以前から具合が悪そうにしていた女の子だった。


部屋をノックして中に入ると、Aがベッドでうなだれて汗まみれで寝ていた。
私は彼女の側に駆け寄り、症状などを聞いて一大事であることを認識した。
すぐにタオル三枚を水で冷やして、一枚を彼女の頭部に。
残り2枚を冷凍庫で冷やした。
そして、オーストラリアスタッフに電話連絡した。
すると「日本語医療センターのスタッフから、すぐにそっちに連絡させるようにします」
ということだったので、一旦電話を切ってから、その連絡を待つことにした。
待っている間に、彼女の呼吸や脈拍を測り、その他の症状をメモ紙に書き留めた。


何分か後、日本語医療センターの山田さんという女性の方から電話があった。
彼女にAの症状や飲ませた薬などを説明した。
彼女は「今からドクターに連絡して症状を伝えます。それでドクターの意見を聞いてから、これからのことを指示します」と言って、電話を切った。
迅速な対応を願った。ただ、ただ、電話を待った。


また、何分か後、山田さんからの電話が鳴った。
「ドクターの助言では、すぐに救急病院に連れていった方が良いと言われた。すぐにタクシーで、サウスポートにあるアラマンダ病院に行って下さい」
それを聞いてから、私はAを連れてホテルの一階に下りて、
フロントに居たボーイにタクシーを呼ぶように言った。


しかし、偶さか其の日は週末で、タクシー会社への電話が全くつながらなかった。
私は居ても立ってもいられず、Aをフロント前のイスに座らせて、
ホテル近くのタクシー乗り場へと走った。
しかし、タクシー乗り場には長蛇の列で、
幾ら待てども乗れそうにないのは目に見えていた。


ホテルへ戻る途中の道路で、運良く一台のタクシーが通った。
私は無我夢中でその車を停めて、運転手にホテルの方へ行くように要請した。
しかし、運転手のオジさんは「私の今日の仕事は終わった」と言った。
私は「これは緊急事態なのだ!頼むから」「それなら救急車を呼べ」と吐き捨てられて、
タクシーはテールランプを瞬かせながら猛スピードで去っていった。


打ちひしがれた私はホテルへ戻り、ボーイにどうにかできないかと問うてみた。
するとボーイが「ホテルのリムジンがあります」と言った。
「幾らだ?」「70ドルです」価格を聞いて迷った。しかし、背に腹は替えられない。
「すぐにリムジンを出してくれ」と言って、
Aに近寄り「すぐに車が来るから安心しろ」と言った。
彼女は微かに頷いただけで、相変わらず荒い呼吸を続けていた。


数分後、白いリムジンがホテルに入ってきた。
意識フラフラのAは、リムジンを見てビックリすることなく、
ただ自分の足取りを確かめながら、リムジンへと向かった。
乗り込んだ私達は、一路アラマンダ病院へ向かった。
山田さんと約束していた待ち合わせの時間には、随分遅れてしまっていた。


ゴールドコーストの町並みを流れる白いリムジン。
このような形でリムジンに乗るとは、誰が予想できようか。
Aの手を握って、すぐに病院に着くぞと安心させるような言葉を投げかけた。
彼女の症状はホテルに居たときよりも、少しは落ちついている様子だった。


白いリムジンは、アラマンダ病院のアクシデント&エマージェンシーの方へと向かった。
乗り付けると、日本語医療センターの山田さんが外で待っていてくれたのが見えた。
しかし、彼女の表情は「なぜ白いリムジン?」というものだった。
車を降りてから彼女に挨拶をして、病院に入った。
すぐに必要書類に詳細情報を書いて、ドクターに診察をしてもらった。


採血、採尿しての診察の結果、身体のどこも悪くなかった。
ドクターも首をひねっていた。私も首をひねった。山田さんも首をひねった。
Aはうなだれていた。
とりあえず、吐き気止めの薬を処方してもらって、病院を後にした。
帰りは山田さんにホテルまで送ってもらった。


車窓から流れるサウスポートからゴールドコーストへの街並みを、
日の出が薄暗く写していた。
ホテルに着いたら山田さんにお礼を言って、Aを部屋へと連れて行った。
ゆっくり休むように指示して、私は自身の疲れた身体を引きずりながら、自室へ戻った。
クタクタに疲れた身体を、ベランダのロッキングチェアーに横たえた。
どこまでも続く水平線から、太陽がオレンジ色の光を放ちながら昇ってくる。
正に、あけぼの。



嗚呼、仕事したーという感を得た。
ベッドが恋しい。
山吹色の光を背中で受け、部屋に戻り、やはり、泥のように眠った。
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by mikan_bivattchee | 2004-11-18 21:42 | 日記
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