快楽の極地

温泉の脱衣所。
隣で着替えている男性が、
ポケットからナイフが取り出して
ロッカーの中に放り込んだ。
何と危険極まりない丈夫(ますらお)か。


そういえば、大学時代のデブヲタのことを思い出した。
学籍番号が近い彼と、ゼミの先生を待っている間、
時間潰しに何気なく話しただけだった。


彼は話の途中で、自前のナイフをに見せてくれた。
専用の砥ぎ石まで大事そうに持っていた。
満面の笑顔を浮かべ、自慢気に研いでいた。
ワシは呆然と、そのシステマチックな左右運動を見ていた。


彼は切々とナイフの話を始めた。
この研ぎ澄まされたナイフで雑誌を切り裂く瞬間、
至高の快楽を得ることが出来ると。
そして、彼は遂にワシに打ち明けた。
『人間を刺した時にはどのような快感が得られるのだろう』と。
また、彼はワシにこう問うてきた。
『ナイフで刺された時にはどのような快感が待っているのだろうか』と。
眼窩からはギラついた欲望が迸っていた。


それ以降、彼と話をすることは無かった。
暫くすると彼は不登校となった。原因は誰も知らなかった。
噂であったが、自慢のナイフで小動物を狩っていると聞いた。
もっと暫くすると、学校を辞めていた。


脱衣所でナイフを放った男の後ろ姿を眺めながら、
自慢のナイフで快楽の極地に行くことのできた彼をことを考えた。
顔がうまく浮かばなかった。


以上。
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by mikan_bivattchee | 2005-07-04 22:54 | 日記
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